転職時期に聴いた曲/the Loupes『針の音』
つい最近、自分の好きなthe Loupesというバンドの『針の音』がサブスクに追加された。
the Loupesを知ったのは、広島の銭湯の地下にあるライブハウスだった。
大学生の頃からファンのkiss the gamblerとの対バンだった。
そのライブのお客さんは、the Loupesのファンが多くて、互いに知り合いみたいだった。共通の趣味を持った友人関係を羨ましいと思う一方で、いつも一人でライブへ行く僕には、より一層の孤独感があった。
どんなライブへ行っても、周囲に憚らず我が物顔で賑やかす関係者グループがいる。
孤独を慰めて肯定するために音楽を聴く、卑屈な僕とは相いれない。
でも、演奏する側からしたら、ただの拍手だけよりも、ガヤがいてくれた方が安心するよな。僕よりも客として素敵だと思う。
そんな風に音楽に関係のないことをライブ中に考えてしまうから、いつもどこか楽しめないんだろう。「周囲に憚らず我が物顔で」なんて、他人へ勝手に悪意をぶつけて、自分の殻に閉じこもるから、統合失調がひどくなるんだよ。
なんて、自己嫌悪していたら、いつの間にかthe Loupesの演奏は最後の曲だった。
その曲のイントロが終わって「子供の頃の夢は香港俳優でした」という一節を聴いた瞬間、身震いした。
小学校の将来の夢のアンケートは、スポーツ選手や医者ばかりでつまんないと、いつもケチをつけてた。
だからさ、子供の頃の夢が香港俳優なんてことある!?って嬉しくなったんだ。
僕はこの曲を歌う人と友達になりたい。
そこからは、興奮で断片的にしか曲を聴けなかった。でも、この曲は、難儀なかたちの僕を理解してくれる気がした。
「大人になったらいつか山に籠もるってさ、今になってわかる気がしてきた」
就活が終わって、大学の同級生から、なぜ地元の電力会社に就職するのか、と聞かれた。
ほとんどの同級生は高給な都会の研究開発職に就くから、僕の選択が人生を棒に振っているように見えたらしい。
建前は人の役に立つ仕事だから、本音は苦しみながらモノを作りつづける人生が嫌だから。その両方を隠すために、山で狩猟をしたいからって答えた。『ぼくは猟師になった』に影響を受けたと嘘をついた。
結局、狩猟免許すら取ろうとしなかったな。
「明日の午後には都会に出る、生れた街はなれる」
ライブ当時は、ちょうど転職活動中だった。
新しい場所への期待と同じくらい、今の居場所から離れたくない気持ちがある。転職を迷っていた。
他人と上手くやっていけない自分だから、本当は山に籠もるような生き方をしたい。でも、それは余りにも難しい。それならいっそ、心地良い場所に居続けたほうがマシかもしれない。
「やがて来る針の音を聴き分ける仕事です。形のないものをコントロール」
ただ、転職したい気持ちも本当で、エンジニアとして生きてみたくなった。挫折したままで終わりたくなかった。
前職は嫌いじゃなかった。でも、煩雑な社内承認や増えていくだけの関係法令とルール、上流工程だけの業務。地元の産業と生活を支える意義のある仕事に、実感が湧かなかった。
重要な仕事を任されて身動きが取れなくなる前に、決断しなきゃいけない。
ステージのキーボードのロゴとメンバーが演奏するスチールギターを見て、思い出した。
大学の同級生とスチールギターを作った。ロックにすべてを捧げたような人で、相対性理論やradiohead、ドレスコーズについてよく話した。自己中で刺々しい性格だから苦手だったけど。彼は希望通り楽器メーカに就職した。
いまがリードアウトなんだと思う。

ある日、稟議の回付で誤字を連発してしまった。申し訳なくて、再回付をためらって「逃げちゃダメ…ですよね」と言ったら、オペラント条件付けされたパチンカス上司は喜んで承認してくれた。すべてのエヴァ台にありがとう。
会社の(社会の)面倒な手続きと自分の至らなさに嫌になる場面も多かったけど、そのたびに先輩や上司に助けてもらった。
僕の理想の社会人像はあの人たちで、このバトンをつなぐために、僕はこれからも働いていく。